金4,363ドル、原油は再び108ドルへ。FOMC週に貴金属を動かす3つの分岐点

対象日:2026年9月14日 | 情報確認:2026-09-14T08:12:25+09:00 JST
9月11日のスポット金は1トロイオンス4,363.01ドル、銀は64.54ドル、プラチナは1,792.11ドル、パラジウムは1,308.63ドルでした。週末にはサウジアラビアの東西パイプライン停止とホルムズ海峡での船舶攻撃が重なり、ブレント原油は週明けに108.23ドルへ再上昇しました。今週の貴金属は、地政学リスクによる安全資産需要と、原油高からインフレ・金利上昇へ波及する逆風のどちらが強いかで方向が分かれます。
週明けの金市場には、正反対の材料が同時に入っています。中東で輸送路とエネルギー設備への攻撃が増えれば、資金の避難先として金を持ちたい需要は強まります。ところが、原油高が物価を押し上げ、米連邦準備制度理事会が利上げを続けるとの見方が強まれば、利息を生まない金には逆風です。
先週金曜日にも金は米消費者物価の発表後に1%超反発しましたが、週間では約1.5%下落しました。つまり、安値を拾う需要はあっても、金利上昇を押し返すほど一方向の買いにはなっていません。今週は「有事だから金高」と一行で結論を出すより、原油、米国債、ドル、金ETFを順番に確認する週です。
銀、プラチナ、パラジウムには、さらに工業需要という要素が加わります。安全資産としての買いが金へ集中し、景気や自動車生産への警戒が残れば、4つの貴金属は同じ方向へ動かない可能性があります。以下では、9月11日の確定に近い参考値と、週末後に判明した新事実を分けて整理します。
今週の結論:焦点は「金利対地政学」の綱引き
9月11日のスポット金は4,363.01ドルで、前日から1%超上昇しました。米金先物は4,408.90ドル付近です。銀は1.6%高の64.54ドル、プラチナは1.0%高の1,792.11ドル、パラジウムは2.1%高の1,308.63ドルとなり、前日の急落から4種とも反発しました。ただし、金は週間で約1.5%安、銀は約2.6%安で、プラチナとパラジウムも週間では下落です。
反発の背景には、急落後の値頃感と、中東情勢を受けた買いがありました。一方、米国の8月消費者物価指数は前月比0.4%、前年同月比3.4%でした。食品とエネルギーを除くコア指数も前月比0.3%で、市場が想定していたより物価圧力が残ったと受け止められました。米10年国債利回りは9月11日に4.97%付近、10年の実質金利は確認可能な9月10日時点で2.55%です。
実質金利は、名目金利から市場が織り込む物価上昇分を差し引いた利回りです。金は利息を生まないため、物価を差し引いても2%台半ばの利回りが得られる米国債があると、保有コストの差が意識されます。反対に、地政学リスクや通貨への不安が強まれば、利回りがなくても金を持つ需要が生まれます。4,363ドルという価格だけでなく、米10年実質金利2.55%との組み合わせが今週の基準線です。
週末に増えた新事実:原油108ドルと輸送路の二重リスク
金曜版から最も大きく変わったのは、エネルギー供給を巡る事実です。ブレント原油は9月11日に104.61ドルで取引を終えましたが、週末の新たな攻撃を受け、週明けの取引で108.23ドルまで上昇しました。WTIも金曜の100.05ドルから103.20ドルへ上昇しています。ブレントの上昇幅は3.62ドル、率にすると約3.5%です。
背景には二つの経路があります。一つは、ホルムズ海峡で船舶が攻撃を受け、火災と乗員退避が報じられたこと。もう一つは、ホルムズ海峡を迂回する役割を担っていたサウジアラビアの東西パイプラインが、ドローン攻撃後に停止していることです。このパイプラインは日量約400万バレルを紅海側へ運ぶ能力があり、停止が長引けば世界供給の約4%に相当する量が脅かされるとの試算があります。
紅海側のヤンブー港には当面の輸出に使える在庫がありますが、報道時点の推計では5日から7日程度です。修理期間は明確になっていません。さらに、湾岸諸国とイランがホルムズ海峡の安全航行を協議するため9月14日にオマーンで予定していた会合は延期され、新しい日程も発表されていません。
ここで大切なのは、攻撃の件数を数えることではなく、実際の供給量と輸送量を見ることです。パイプラインの再稼働、ヤンブーからの積み出し、ホルムズ海峡の通航隻数が改善すれば、原油に上乗せされた地政学的な価格部分は縮み得ます。反対に設備停止が長引けば、金への避難需要とインフレ懸念が同時に強まり、金の日中値幅が広がりやすくなります。
金:ETFの厚い需要と、FOMC前の持ち高調整
金の中期的な支えは、現物連動ETFへの資金流入です。世界黄金協会によると、8月の世界の金ETFには180億ドルが流入し、月間では過去2番目の大きさとなりました。保有量は121トン増えて過去最高の4,189トン、運用資産残高は6,150億ドルです。中央銀行も7月に差し引き23トンを買い越しており、通貨準備を分散する需要は続いています。
ただし、ETF流入や中央銀行購入は、今週の価格が必ず上がることを意味しません。ETFは月次集計で、中央銀行統計には報告の遅れがあります。日々の価格は、先物市場の持ち高と金利の変化に先に反応します。9月8日時点のCFTC集計では、金先物の非商業部門は買い261,007枚、売り29,047枚で、差し引き231,960枚の買い越しでした。前週の228,124枚から3,836枚増えています。
買い越しが増えた状態でFOMCを迎えると、政策が想定より引き締め的だった場合に利益確定が集中する余地があります。一方、利上げが実施されても、会見で追加利上げに慎重な姿勢が示され、長期金利が低下するなら金は戻りやすくなります。政策金利の変更幅だけでなく、米国債市場がどう反応したかを見ないと、金の方向を読み違えます。
金の強さを判断する条件は、地政学ニュースの直後に上がることではありません。米10年債利回りが高止まりしても4,300ドル台を保ち、ETF資金が流出に転じず、FOMC後に買いが続くかです。急報だけで上昇して数時間で戻る場合は、安全資産需要より金利の逆風が勝っている可能性があります。
銀:64.54ドル、金より大きな値幅をどう読むか
銀は9月11日に64.54ドルへ反発しましたが、週間では約2.6%下落しました。金を銀で割った金銀比価は、同日の参考値で約67.6倍です。前日参考値の約67.9倍からわずかに縮小しましたが、銀が金に対して明確に優位へ戻ったと判断できるほどの差ではありません。
銀には、投資資産と工業材料の二つの顔があります。太陽光発電、電子部品、電力網などの需要が支えになる一方、金利上昇で設備投資や景気への警戒が強まると売られやすくなります。原油高も、製造業の輸送費や電力コストを押し上げるため、単純なインフレヘッジ材料とは限りません。
9月8日時点のCFTC集計では、銀の非商業部門は買い36,245枚、売り10,196枚で、差し引き26,049枚の買い越しでした。前週の26,739枚から690枚減少しています。総建玉も1,112枚減りました。買い越しと総建玉がともに減る局面は、新しい上昇資金が積み上がっている状態とは異なります。
今週、銀の反発に厚みが出るには、金が安定するだけでなく、銅や株式市場の景気敏感分野が崩れないこと、価格上昇と建玉増加が同時に起きることが必要です。金だけが買われ、銀や銅が売られるなら、市場は「物価対策」より「安全な逃避先」を選んでいると読めます。
プラチナとパラジウム:同じ白金族でも条件は別
9月11日のプラチナは1,792.11ドル、パラジウムは1,308.63ドルでした。前日比ではそれぞれ1.0%、2.1%上昇しましたが、週間ではともに下落しています。金より反発率が大きい日があっても、安全資産需要だけで説明するのは適切ではありません。両方とも自動車の排ガス浄化触媒など工業用途の影響が大きいからです。
プラチナは、世界白金投資協議会が2026年の需給見通しを29.7万オンス不足から26.5万オンス余剰へ変更したことが重荷です。総需要は前年比18%減の見通しで、ETF流出と中国の宝飾需要減少が響きます。ただし、生産が南アフリカに集中し、過去の供給不足で地上在庫が減っているため、余剰予測だけで供給不安が消えたとはいえません。
パラジウムはガソリン車向け触媒への依存度が高く、電気自動車の普及、触媒使用量の削減、プラチナへの代替が長期的な逆風です。一方で、供給はロシアと南アフリカに集中しています。今週は地政学リスクより、世界の自動車株と生産計画、鉱山会社の供給情報に反応しやすいと考えられます。
プラチナ価格をパラジウム価格で割ると約1.37倍です。比率は代替の経済性を考える手掛かりですが、どちらか一方の上昇を保証するものではありません。プラチナはETF流出の鈍化、パラジウムは自動車需要か供給障害の具体化を、それぞれ別に確認する必要があります。
天然ガスと銅:貴金属の工業需要を測る脇役ではない
欧州の天然ガス指標であるオランダTTFは、9月11日の期近物が1メガワット時79.52ユーロでした。前日の高値82.56ユーロからは落ち着きましたが、中東からのLNG供給不安と冬前の在庫積み増しを考えると高い水準です。天然ガス高は、ガラス、化学、金属加工などエネルギーを多く使う産業の費用を増やします。プラチナの工業需要にも間接的な重荷になります。
銅は9月11日のCOMEX参考値で1ポンド6.47ドル付近、LME3カ月物は1トン14,233ドル付近でした。9日に記録的な高値を付けた後、米国の精製銅関税を巡る期待が後退して急落し、金曜は小幅に戻しています。送電網、データセンター、建設、自動車に使われるため景気の体温計と呼ばれますが、足元では実需だけでなく関税を見込んだ在庫移動の影響が大きい点に注意が必要です。
CFTCの9月8日時点で、銅の非商業部門は買い129,500枚、売り37,024枚、差し引き92,476枚の買い越しです。前週の80,869枚から11,607枚増え、総建玉も14,851枚増えました。買いが積み上がった直後に政策期待が崩れると、持ち高解消で値幅が広がる可能性があります。銀を読む際も、銅の価格だけでなく、LMEとCOMEXの価格差、在庫、建玉を併せて見るべき局面です。
日本から見る金価格:ドル円153円台が作るもう一つの動き
国際金価格はドル建てですが、日本の金価格は円換算されます。週明け前の確認値ではドル円は153円台後半でした。ドル建て金が下落しても円安になれば、国内価格の下げは小さくなります。反対に、ドル建て金が上がっても円高が速ければ、円建て価格は伸びにくくなります。
9月8日時点のCFTC集計では、円の非商業部門が10,796枚の買い越しとなり、前週の92,227枚売り越しから大きく反転しました。日本銀行の利上げ観測と、日本の投資家が海外資産を円へ戻す思惑が背景です。これは円高方向の燃料になりますが、FOMCが想定以上に引き締め姿勢を示せば、日米金利差を意識したドル買いが戻る可能性もあります。
家計や企業にとっては、金より先に原油と天然ガスの影響が表れます。ガソリン、航空運賃、物流、電気・ガス料金、プラスチック包装などに波及するからです。円高は輸入コストを和らげますが、原油そのものが108ドル台へ上がれば相殺されます。商品市場と為替を別々に見るのではなく、円換算後の支払額まで考えることが重要です。
今後の見通し
対象期間
2026年9月14日から18日までを中心に、FOMCと日本銀行の金融政策決定会合を通過した後まで見ます。
MARKET EYEの基本的な見方
確認済みの事実は、金曜に貴金属4種が反発した一方、金と銀は週間で下落し、週末の攻撃を受けてブレント原油が108.23ドルへ上昇したことです。ここから先の分析では、金は地政学需要に支えられても、米10年利回り4.97%付近と実質金利2.55%が続く間は一方向に上がりにくいとみます。銀と白金族は工業需要の影響が加わるため、金より値幅が大きくなる余地があります。
好転する条件
サウジの東西パイプライン再稼働や海峡通航の改善で原油が落ち着き、FOMC後に米長期金利と実質金利が低下することです。金ではETF流入が継続し、4,300ドル台を維持すること。銀では金の安定に加えて銅と株式の景気敏感分野が持ち直すこと。プラチナではETF流出の鈍化、パラジウムでは自動車需要か供給面の具体的な改善が必要です。
悪化・見方を変える条件
パイプライン停止が長期化し、原油高が米金利をさらに押し上げる一方、景気期待が悪化する組み合わせです。金は実質金利上昇、銀・プラチナ・パラジウムは実質金利と工業需要の悪化という二重の逆風を受けます。ETF資金流出と先物買い越し縮小が同時に進む場合も、下支えの再点検が必要です。
次に確認する日時と指標
FOMCは9月15日から16日で、経済見通しも公表される会合です。日本銀行の金融政策決定会合は9月17日から18日です。加えて、パイプライン再稼働情報、ホルムズ海峡の通航、ブレント原油、米10年債と実質金利、ドル円、金ETFフロー、次回CFTC建玉を確認します。延期されたオマーン会合の新日程は発表されていないため、決め打ちはしません。
今週の確認順:価格を見る前に押さえる6項目
第一は、サウジの東西パイプラインがいつ動くかです。設備の復旧と実際の輸送再開は同じではありません。公式発表と積み出しデータを確認し、供給の実量が戻ったかを見ます。
第二は、ブレント原油108ドル台が維持されるかです。攻撃直後の上昇が続かず104ドル台へ戻るなら、地政学プレミアムの一部がはがれた可能性があります。高止まりすれば、金利と企業コストへの影響が長引きます。
第三は、FOMC後の米10年債と実質金利です。利上げの有無だけでなく、長期金利が下がるか上がるかを確認します。金が政策発表直後に動いても、翌日の債券市場で逆転することがあります。
第四は、金ETFとCFTC建玉です。ETFの現物需要が続き、先物の過熱だけが解消するなら中期の土台は残ります。両方が同時に流出へ向かう場合は、調整が長引く可能性があります。
第五は、銀と銅が同時に持ち直すかです。両方が上がれば工業需要への信頼が戻った可能性があります。金だけが上がる場合は、安全資産への逃避が中心と考えられます。
第六は、日銀会合後のドル円です。円高なら国内の輸入商品価格を抑えやすく、円安ならドル建て金や原油の上昇が家計と企業へ強く伝わります。日本の投資家はドル建て価格と円換算価格を並べて確認する必要があります。
金曜版では、原油高と米金利上昇が貴金属4種を押し下げた一週間を整理しました。今回はその後に起きたパイプライン停止、船舶攻撃、外交会合延期を加え、FOMCと日銀会合までの条件を更新しています。直前の整理は[market_eye_link issue_id=”2026-09-11-commodities-precious-metals-weekly” label=”金4,355ドル・銀4.6%安|原油107ドル後の貴金属見通し”]、原油・金・穀物を横断した供給リスクは[market_eye_link issue_id=”2026-09-03-commodities-oil-gold-wheat-hormuz-payrolls” label=”WTI90ドル台・金4,400ドル台・小麦35%高|商品市場を動かす3つのリスク”]をご覧ください。
本記事は公開情報を基にした市場解説であり、特定商品の売買を推奨するものではありません。現物、先物、取引所、取得時刻によって価格は異なります。本文では市場と時点を明記し、未確認の修理時期や会合日程は推測していません。
情報源・参考資料
- 補足情報 Reuters|Gold rises on dip-buying even as Fed rate-hike bets rise
- 補足情報 Reuters|Oil falls Friday but ends with weekly gain
- 補足情報 Reuters|Oil jumps after new strikes on Saudi and Strait of Hormuz
- 補足情報 Reuters|Saudi pipeline outage threatens 4% of global supply
- 補足情報 Reuters|Oman meeting between Gulf states and Iran postponed
- 一次情報 U.S. Bureau of Labor Statistics|Consumer Price Index, August 2026
- 一次情報 CFTC|COMEX futures-only commitments as of September 8, 2026
- 一次情報 World Gold Council|Gold ETF Flows, August 2026
- 一次情報 World Platinum Investment Council|Platinum Quarterly Q2 2026
- 一次情報 Federal Reserve|2026 FOMC meeting calendar
- 一次情報 Bank of Japan|Monetary Policy Meetings 2026
- 一次情報 Federal Reserve Bank of St. Louis|10-year inflation-indexed Treasury yield
- 一次情報 ICE|Dutch TTF Natural Gas Futures
- 一次情報 London Metal Exchange|Copper market data
- 補足情報 Reuters|White House copper tariff plan stalls
- 補足情報 Reuters|Speculators turn net long on yen
- 補足情報 Financial Express|Central banks add 23 tonnes of gold in July
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